お通しがないのもここの魅力。

京王八王子駅から徒歩約3分、れんが通りに(魚酒場じゅらく 八王子本店)がある。
「いらっしゃいませ」
若い女性従業員が笑顔で迎えてくれた。
カウンターに腰をおろし、見渡す店内にどうも見覚えがある。
「ここはもしかして、元はすし処きた八？」
「はい。すし処きた八さんの後にうちが入りました」
(すし処 きた八)は何度か入った寿司屋だ。
まずは酒。
銘酒居酒屋などと比べると、そこまで種類は多くはないが、「鷹勇」「紀土」「栄光富士」など、その顔ぶれを見るだけでこの店が酒に対して強いこだわりを持っているだろうことは想像に難くない。
さあて、ゆっくり飲むぞ。

選んだ鳥取地酒「鷹勇」をクイー。

酒銘は初代当主が朝戸を開けると鷹が舞い込んだことに由来する。

優しいふくらみとスッと入るのど越しのキレが抜群で、酒党垂涎の酒だ。
挨拶代わりの「鮮魚の盛り合わせ」はマグロ、カンパチ、コダイが登場。
この日の一押しであるマグロをいただくと、鼻に抜ける香りと申し分ない脂ののり。
はっきりとした目的がなければ足を向けないであろう場所に、こういう居酒屋がぽつんとあるのだから、八王子の魅力はどこまでも奥が深い。

全国の居酒屋事情。

東京は全国の地酒で飲めない酒は無く、地酒を飲むなら断然東京の居酒屋だ！

東京の酒飲みは酒にうるさいのも特徴。

東京で飲みを誘うときは（今日飲みにいかない？）だろう。

関西は（なんかうまいもん食べにいこか）と誘う。

食い倒れ大阪をはじめ関西は以前から酒より料理に力を入れる。

しかし関西の居酒屋も地酒を置くようになり、うまい料理に酒もよくなれば無敵だ。

それは大阪の酒販店「山中酒の店」の功績でもある。

北海道の居酒屋は以前は炉端焼きが多く、特に釧路は今でも居酒屋と言えば炉端焼きだ。

寒い北海道は赤々とした火のあることが最大のもてなしで、北海道の炉端焼きは開拓当時の記憶を伝えているのだ。

野菜は大きく新鮮で、海に囲まれた北海道は魚も素晴らしくそのまま焼くだけで御馳走だ。

しかし最近は北海道の居酒屋に変化が起きている。

洗練とは無縁だった北海道の居酒屋に、洗練された地酒を揃える東京風の割烹風の居酒屋が少しずつ増えてきている。

九州は福岡あたりはよい地酒もあり、まだ日本酒を飲むが、圧倒的に焼酎圏で、九州では酒といえば焼酎のことだ。
焼酎は今や全日本に広まったが、本場では昔から何も変わらずお湯割りで愛飲し、焼酎とのおだやかなつきあい方は一歩も二歩も上手である。

海を越え沖縄に至ると酒は泡盛になり肴も一変する。

島らっきょう、テビチ、ラフテー、スクガラス、島豆腐など沖縄料理は医食同源の流れをくみ、陽性の哀調を帯びた三線の調べとともに、身も心も限りない癒しに導くのが沖縄居酒屋の最大の魅力だ。