よっ!仕事人
手作りコッペパンの店「山田製パン」2代目の今村由美子さんにお話をお伺いしました!
2010/04/26
地域をこと細かに歩いてみると、いろんなお店があることに気が付きます。路地裏にあるお店、近所の人しか知らない・行かないお店、何気なく素通りしていて、気に掛けたこともなかったお店。そんなところにちょっと目を向けてみると、意外な発見に出会えます。地域の魅力はそんなところに転がっています。
山田製パンはコッペパンを作り続けて70余年。昔ながらのコッペパンはぷっくりとした懐かしい風貌をしていて、昭和レトロというトレンドでも、復刻でもない。何も着飾らない、そのままの形・そのままの味を作り続けている
昔ながらの手作りコッペパンを自家工房で作っている『山田製パン』の2代目、今村由美子さんにお話をお伺いしました。
親・子・孫3代で経営のパン屋
まいぷれ:はじめまして!どうぞよろしくお願い致します。親子孫の3代経営とお伺いしましたが。現在もそうなのですか?家族構成を教えていただけますか?
今村さん:え~、創業は私の父、山田則仁で、数年前までは現役のパン職人としてここで働いていましたが、現在は私が代表として経営しています。そして、私の娘(田中真野さん)が3代目にあたりますね。
まいぷれ:そうなんですね~。じゃあ今は女性だけでパンを作っているんですね?
今村さん:ええ、そうなんです。父がいた頃はワンマン経営というか、職人気質な人でしたから一人であれこれやっていましたが、今はこんな感じに女性だけでやっていますよ。
まいぷれ:創業は何年なんですか?
今村さん:昭和13年ですね。なので創業から数えると70年余ですかね。でも、途中、戦争に行ったりしていた期間があるからずーっと続けているわけではないですけどね。
まいぷれ:創業当初からずっとこの場所ですか?
今村さん:そうですよ、父の頃から実家がここです。
まいぷれ:創業者の山田さんにお話を聞けなかったのが残念ですが、創業のきっかけや当時の雰囲気など、今村さんの知っている限りでお話していただけますか?
今村さん:そうねぇ。創業者の父は、八王子の八幡町にあった栄楽パン店というところに就職して、パン製造の見習いを始めたのが最初で、そこで5年間修行したそうです。その後はいろいろなパン製造工場で職人として技能を修得し、創業したそうです。
当時は今のようにパンが一般的ではなかったから、ここで作ったパンを相模原の方とかまで自転車で売りに行ったりしていたとは聞きましたね。アンパンや菓子パンを売っていたみたいです。昔は粉の品質が悪かったので、今の様な柔らかいパンではなかったんですよ。
親の姿を見て育ってきてるから、自然とできちゃうんですよね
まいぷれ:今村さんはいつ頃からここでパンを作っているんですか?
今村さん:私は昭和61年から山田製パンで働いています。娘は6年くらい前からですかね~。娘は大学時代に学校でパンを勉強していて、結婚後ここ働くようになりました。
まいぷれ:今村さんはなぜパン屋の後継ぎをやろうと思ったんですか?
今村さん:全然!パン屋をやる気なんてなかったのよ~。私もともと自衛官だったんですから(笑)
まいぷれ:へぇ~そうなんですか!意外な経歴ですね!
今村さん:自衛官を続けるには女性では壁があったんですよ。時代とともに、男女が段々と平等に仕事が出来るようになってから、夜勤勤務やなんかをやらなければならなくなってね。ちょうど家庭の事情も重なって、それで退職してしまったわ。でもね、ホント、パン屋を継ぐ気なんてなかったのよ。創業者の父も、娘にやってもらおうとも思ってなかったですしね。私は私で『朝早く、夜遅い生活なんて絶対にイヤだ!』ってずっと思ってましたからね~(笑)
ずっと家(パン工場)の手伝いなんてしてこなかったですもん。だから、パンのことなんか一切教わってないんですよ。でもね~、親の姿見てると、自然と出来てしまうんだよね~。そういう環境があったからできるんだろうね。
まいぷれ:おもしろいもんですね~。きっかけは、そんなもんなんですね~(笑)
オーソドックスなもの、地味なものがイイ
まいぷれ:創業当時からず~っとコッペパンが主流なんですか?
今村さん:そうですね、調理パンなんかも作ってはいますけど、ずーっとコッペが主流ですね。
まいぷれ:なんで、菓子パンとかあまり作らないのですか?
今村さん:大変じゃない、菓子パンとか惣菜パンとかって。調理するのもそうだけど、材料から何から。保存もきかないから、仕入れも大変でしょ、売れ残ったら結局捨てる事になるじゃない。だから今うちで作ってる調理パンも、その日売り切りの最小限の数しか作ってないですね。
まいぷれ:なるほど。あそこにあるコッペパンのメニューを見ても、ジャムやマーガリンなどシンプルなものばかりですね。あれこれメニューを増やさないのも同じような理由で?
今村さん:そうね~…、作業的に増やすともう大変になっちゃうから(苦笑)
メニューが増えれば、消費する割合も偏っちゃうでしょ、そうなると管理面でもコストの面でも大変だわ。
それにね、このままのスタイルを崩したくないっていうのもあるわね。オーソドックスなもの、地味なものが良いのよ。
まいぷれ:だからこそコッペパンそのものの味が保てたんですかね。
今村さん:そうかもしれないですね。今はコッペにホイップクリームを入れたりしているところもあるけど、父も洋風なものがあまり好きじゃなかったですからね。
まいぷれ:ちなみに、人気のメニューってありますか?
今村さん:あげパンかな?
コッペパンのメニューこそ、今は15種類くらいあるけど、昔はピーナッツとジャムしかなかったのよ。クリーム・チョコ・あんこ・ポテトサラダは完全に自家製よ。
あげパンもね、「給食で食べてたものが、食べたい」って言ってきたお客さんがいて、その人の為に作ってあげたのがきっかけなんです。それ以来人気で、1日50個以上出ることもありますよ。
まいぷれ:あげパン懐かしいですね~。私も小学校の給食で食べたのを思い出します。
昔からずっとあるものだから飽きが来ない
まいぷれ:製法や作業工程などで、他ではやっていない山田製パンならではの方法とかってありますか?
今村さん:製造方法はなんら変わらないと思います。
でも、「良い粉を使えばうまいパンができる」って創業者がよく言ってました。小麦粉の値段がどんどん上がっても、なるべくパンの値段を上げずに美味しさを保つ努力や工夫はしてきました。粉の調合でパンの歯ざわりが変わってくるんですよ。粉の調合に試行錯誤して、品質を落とさずにやってきたっていうのはひとつのこだわりですね。今は6種類の粉を混ぜてこのコッペパンを作っています。
まいぷれ:そんなにたくさんの種類を混ぜているんですね!
前回の取材(こんにゃくの「なかの屋」)でも同じ質問をしましたが、山田製パンの特徴を一言で言うなればなんですかね?
今村さん:「昔ながらのコッペパンの形」かな?余計な手を加えていないシンプルな形です。
最近良くみかけるコッペパンはなんだか細長くて、「これがコッペかな~?」って思っちゃうね。
まいぷれ:このコッペパンって、ここ以外どこかで食べれますか?
今村さん:近所の小さなお豆腐屋さんで買えるくらいで、あとはここでしか売ってないですね。
まいぷれ:地元の近所の方々が買いに来る事が多いんですかね?
今村さん:そうね~、ぜんぜん宣伝はして来なかったからね。でもクチコミで遠くの方から買いに来られるお客さんも結構多いですよ。お土産に買われていくお客さんが多いです。
まいぷれ:そうですか。逆にこんな人達に食べてもらいたいという想いってありますか?
今村さん:う~ん…、無理強いはしたくないんですよね。だから誰にっていうのはないかも知れないけれど、一度食べてもらえれば、美味しいと思ってもらえる自信はあります。最近のパンは、毎日食べたら飽きるパンが多いな~って思うんだけど、山田製パンのパンは飽きの来ないパンだと思っています。ず~っと続けてきてるからね。味も落ちていない自信はありますよ(笑)
【手作りコッペパンの店 山田製パン】
八王子市中野上町1-32-22 TEL:042-622-2561 2代目 今村 由美子山田製パンの2代目として、創業者が作りあげてきた手作りのコッペパンにこだわり、その味・形を変えず昔ながらのコッペパンを作りつづける。写真右は今村さんの娘さんの田中真野さん。親子で楽しそうな雰囲気の、街の小さなパン屋の工房には笑顔が絶えない。