何はともあれ熱燗をクイー……。

JR八王子駅北口から歩くこと約二分、ジョイ五番街通りに建つ雑居ビル三階に居酒屋(与作)がある。
粉雪舞う北風吹く夕方、真冬の寒い日の熱燗を酌むときほど、日本酒のうまさを実感するときはない。
何はともあれ熱燗をクイー……。
まずは牡蠣。
これが出てこそ冬を知る。
冷たい生牡蠣をつるりとやったら、その殻に熱燗を注いで飲む牡蠣酒は、やや残る海の潮香がたまらない。
名物かに料理から選んだ「かにしゅうまい」は、きれいに真ん丸のが五個行儀よく並び、皮からうっすら透ける桜色と、緑鮮やかな大葉の対比が美しい。
十分くらいかけてゆっくり蒸したかにしゅうまいは、ふんわりした歯応えに、添えた辛子がよく合う。

真打はズワイカニの刺身！

冬の王者はカニという。
テレビ番組によく登場し「ほおー」などと歓声を上げている。
あれはスタッフが食べたくて行くのだろうな。
カニは大変高価なだけにやれ○○県の△△が日本一だ、究極だと自慢話が喧しい。
浅ましいではないか。
たかがカニごときで騒ぐんじゃない。
それよりも「かにしゅうまい」の純情をとれ！
と舌打ちしつつズワイガニ刺身を注文した。
うまそうに濡れて光るカニの足を一本とりあげ、それきり手は盃に戻らなかった。

我ながら浅ましい。

演歌が流れるこの店は、学生時代にはじめて入った居酒屋の雰囲気がある。
一昔前のとてもよい居酒屋だ。
居酒屋好きになった私は、たどり着くべくしてここに来たのかもしれない。